音楽で「泣ける」ことは素晴らしいことだ。

 音の揺らぎの中にすうっと身を浸していると、僕達の心は激しく慟哭することがある。まるで実際に「泣いて」いるかのように。

 でも、だからと言って本当に目から涙を流すわけじゃない。むしろ、そんなヤツを客観的に見ると正直かなり引いてしまうだろう…(まあ、少なくとも、僕はその人と友達になりたくはないなぁ)。

 感受性が強いと言えば聞こえは良いだろうけども、やっぱり自己陶酔は痛々しくて、気持ちが悪いとしか思えない。「Music Is The Key Of Life」であって、「Music Is Life」じゃない。あくまでも、「Key」に過ぎないことを忘れちゃいけないはずだ。

 そんな僕が、胸に込み上げて来るのを抑え切れない衝動に襲われた。「Key」の発掘。SUPERCARの新曲”YUMEGIWA Last Boy”。思わず試聴機の前にへたり込みそうになったほどだ。
__________

 音楽は、2次的な段階を辿ることによって人に訴えかけて来るものだと僕は思っている。

 第1次的には音そのものだ。何と言っても、まず飛び込んで来るのが、音の気持ち良さ。これは音楽経験を積み重ねることによって、自分の心を震わせる音楽の幅は確実に広がる。音の刺激に対して免疫力が備わるからだ。新しい音への探求。それが音楽が僕達を虜にする原動力だろう。

 そして第2次的に訴えてくるのが歌詞だ。僕にとっては邦楽にしても洋楽にしても、その曲に対する評価を決定づける大きな要因になる。

 ヒットチャートを騒がせる曲の大半(と言うか、ほとんど全て)がラブソングである。人間にとって恋愛とは、究極的には対象年齢を限定しない感心事だ。万人の心を捕えることを主目的にしたヒットチャートをラブソングが独占する状態は、需要と供給とが合致することから見ても、まさに必然的に成り立つと言っても良いだろう。

 だからこそ、ありふれた表現が無造作に氾濫してしまいがちだ。しかし、そんな曲群に埋もれてしまっていても、思わずはっとさせられるような詞は(稀ではあるけど)確実に存在しているわけだし、僕はそんな詞に遭遇するのを心待ちにしている。

 そういった歌詞を峻別できる能力は、やはりリスナーの価値観に深く根付いているのではないか。歌詞に自分を重ねられるかどうかが、その曲に対する評価基準になるのは否定できないだろう。

 つまり、音の評価は身体が自然と受け付けるか否かで決するものであり、詞の評価は頭で解釈して共感できるか否かで決するするものだと思う。
__________

 ここでスーパーカーの話に戻ってみると、前のシングル曲”Strobolights”の『2愛+4愛+2愛…−サンセット』という歌詞にも相当驚かされたけど、今回の”YUMEGIWA Last Boy”では、その実験が新しい次元に到達するような成果に結びついた。

 スーパーカーは昨年のアルバム「Futurama」でテクノに大幅に接近して以来、それまでのギターポップ然とした流れるような歌のメロディーは極限までに削ぎ落とされ、それに比例して歌詞の量も激減するようになった。そこから今回の曲に至る模索が始まったのだろう。

 最小限で最大限の表現方法。”Strobolights”の『2愛+4愛+2愛…−サンセット』の『2』は『to』でもあり、『4』は『for』でもあり、そして『愛』は『I』と『eye』でもあるのだ。このようなダブル(トリプル)ミーニングと言った手法は、何も特段斬新なわけじゃないし、古くは和歌の時代から、掛詞なるものが存在している。
__________

 歌詞なんて、簡単なことばかり言っていても意味がない。難しいことを難しく言うのも簡単だろうけど、それにも意味がない。難しいことを簡単に言うことこそが、難しいけど意味のあることなのさ。
__________

 新曲”YUMEGIWA Last Boy”のサウンドは、まりんプロデュースによるだけあって、スペイシーな路線を突き詰めた秀逸なダンストラックではあるけど、実はたいして新鮮じゃない。「砂原良徳がスーパーカーをプロデュースする」という前情報を受け取った時点で、「きっとこんな感じになるんだろうなぁ」という予想の範疇に収まる仕上がりだった。

 だが、しかしだ。そのサウンドに乗せられる歌詞が素晴らしい。これまでのスーパーカーのエコーが掛かったヴォーカルとは正反対の、一言一言クリアーに歌われる『夢際のラストボーイ、永遠なる無限、触れていたい夢幻』というフレーズ。これがサウンドと織り成すスペクトルが、感情を膨れ上がらせる。

 『無限=夢幻=夢限⇒夢際=YUMEGIWA』と自然と派生していくだけに留まらず、さらにラストのフレーズを解体すると『振れて』『痛い』『タイム』『嫌』という具合に(こじつけじゃなくて)無意識のうちに共鳴していく感じがある。まさに圧巻だ。

 この曲でスーパーカー(石渡淳治)は、松本隆・井上陽水・桑田佳祐・佐野元春・甲本ヒロト・小沢健二・中村一義と連なる、男性による日本語歌詞の新しい方法論を提唱したと言っても過言じゃないはずだ。少し気取り過ぎなところは癪に触る時もあるけど、今回ばかりは素直に志の高さに感服させられた。

Thanks For The Inspirations Of…

SUPERCAR/”Strobolights””YUMEGIWA Last Boy”
奥田民生/「29」「30」「Failbox」「股旅」「Goldblend」

コメント

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

まだテーマがありません

この日記について

日記内を検索